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“フーテンのべべ”が書いた小説世界 伊佐山ひろ子×大根仁×松江哲明トークショーレポート

「アナーキーな顔したらいいんだよ」

引き続き伊佐山さんの出演作を見ていきます。会場には若い女性も多く、初めてロマンポルノを見たという人もいるのでは。2本目は『一条さゆり 濡れた欲情』。伝説のストリッパー・一条さゆりが本人役で出演して話題を呼んだ、鬼才・神代辰巳監督による日活ロマンポルノの傑作です。伊佐山さんは後輩ストリッパー・はるみ役で出演されています。


 
『一条さゆり 濡れた欲情』監督:神代辰巳

 
大根:俺、昨日予習のために十何年ぶりに見直したんですが、もう面白すぎて死ぬかと思った。酒がぐいぐい進みましたよ。神代さんとはこれが初めてですか?

伊佐山:『白い指の戯れ』のときも脚本担当だったので、撮影現場にしょっちゅうお見えになってました。

大根:それで「次、お前出ろよ」って言われたんですか?

伊佐山:はい。

松江:神代さんて、どんな方なんですか? 僕、神代さん本当に好きなんです。
 
伊佐山:女を分からない人だなって思いました。
 
大根・松江:(笑)
 

大根:DVDの特典映像に出てくるエピソードで、伊佐山さんが「どんな顔して演じたらいいの?」って聞いたら、神代さんが「アナーキーな顔したらいいんだよ」って答えたというのがあって。「うわー、これ言ってみたいわ!」って。


伊佐山:でも「アナーキー」っていう言葉も知らなかったの。カメラが回る直前だったから「アナーキーって何?」って聞く暇もなくて。でもだいたい音の感覚でやったつもりです。
 
大根:無政府主義者的な顔で(笑)。
 
伊佐山:それで監督に聞いたら「OK!」って。
 

スクリーンには、冒頭のシーンが映し出されます。ひらひらの透けるミニワンピースをひらひらさせて、ストリップ小屋に向かうはるみ。手には小さな日傘。


大根:これは『白い指の戯れ』からどれくらい期間があいているんですか?
 
伊佐山:1年くらい。
 
大根:ものすごい芝居が進歩してますね。
 
松江:全然違いますね。
 
大根:さっきみたいに自分アピールがないじゃないですか。完全に役になってますよね。観ていない方に説明なんですけど、伊佐山さんが主役なんですけど、タイトルにもある一条さゆり役ではないんですよね。
 
伊佐山:はるみ役です。
 
松江:一条さゆりさんのドキュメントっぽいですよね。ドキュメンタリーというか、自分で自分の役を演じてる作品なんですよ。
 

警察に摘発され、留置所に入れられたはるみとその白川和子さん演じる同僚。はるみが着ているのは、裾が大きく広がったデザインの白のワンピース(これもやっぱりミニ!)。大根さんも衣装がかわいいと絶賛。と、おもむろに檻をよじ登り始めるはるみ。


松江:こういう動きって神代さんがつけるんですか…?
 
伊佐山:いや私が考えたの。
 
松江:えっ! すごい恰好してますよ!
 
大根:フレームからはみ出しちゃってるよ。
 
松江:伊佐山さんが考えてたんですか!
 
伊佐山:考えたっていうか、檻があったら普通よじ登りたいでしょ。
 

そして次はこの映画のハイライト、警察のガサ入れがあって、衣装箱に隠れたはるみ。その衣装箱が坂道をどんどん下っていってしまうシーン。伊佐山さん、実際に衣装箱の中に入っていたそうです。坂道を下って交差点でバスとぶつかって箱は止まり、その中から出てくる裸のはるみ!


大根:ここ名シーンですよね。本当に入ってるんですもんね。
 
伊佐山:渋谷の大きな交差点を裸で…明け方ではあったんですけど。でもこのときは、撮影の姫田(真佐久)さんも「もう撮っちゃえ撮っちゃえ」という感じでした。「警察が来たらそのときのことだろ」って、結構何でも撮ってましたね。だってポルノだって言ったら、許可してくれないでしょ。
 
松江:さっきの『白い指の戯れ』もゲリラ撮影が多いですもんね。
 

本当にこのシーンは圧巻。未見の方はぜひともDVDで見てもらいたいです! 3本目は『エロスは甘き香り』(’73)。桃井かおりさんと伊佐山さんが共演している、日活ロマンポルノ作品。監督は、秋吉久美子や森下愛子の青春シリーズでも知られる藤田敏八監督。出演の経緯を聞いてみると、またもや伊佐山さんの大物っぷりを伺えるエピソードが。



『エロスは甘き香り』監督:藤田敏八
 
伊佐山:これは桃井かおりさんと出ているんです。私もこのとき3本目とか4本目だったので、俳優ってことに慣れてきていましたね。
 
大根:3本目か4本目で素敵な(笑)? 早いですね。
 

伊佐山:藤田敏八さんがこれを撮ることになって「どっちの役がいい?」って言われたので、「出番が少ないほうがいい」って言ったんです。


大根:それで出番の少ないほうを取ったんですか(笑)。ベテランのレベルじゃないですか。
 
松江:でも立て続けに凄いですよね、巨匠というか、すごく個性的な監督さんと組まれていて。
 

伊佐山:日活と契約してなかったので、私にも選ぶ権利があったんです。でも日活としては、契約してない女優を使うよりも、契約してる女優を使うほうがいいから「他に契約している女優がたくさんいるじゃないか」って揉めていたんです。


松江:おおーすごいですね。でも逆に日活専属だったら、日活のものにしか出ちゃダメですもんね。
 
伊佐山:そう。『一条さゆり 濡れた欲情』のときも、日活と契約しなきゃ出させないって上からも言われてたんです。だから神代さんに連れられて、電車に乗って二人で銀座の日活の偉い人のところに「伊佐山さんで、これをやりたい」って嘆願に行ったんです。
 
大根:当時の神代さんも藤田さんもそうですけど、この時代の監督ってルックスすごく色っぽいですよね。そこについては別に興味がありませんか?
 
松江:伊佐山さん、ご自身ではどうしてそういった監督に好かれたんだと思います? 
 
伊佐山:まあ、他の人があまり出たがらない作品に私は出てたっていうのと、あとは私、人気があったんですよ(笑)。
 
松江:(笑)はい。そうですよね。
 
撮影所があった時代。今の映画やテレビドラマの撮影現場とは随分違うのでしょうね。

松江:どういう風にして監督と付き合ってたのかなって。家族的な雰囲気っていうのが、もうちょっと聞きたいなと思ったんですけど。
 

伊佐山:高校卒業して東京に出てきて、養成所に入ったんですけど、年上の人ばっかりで、みんなすごくいい人で。先輩に奢ってもらったり、お腹がすいたら先輩のバイト先に行ってご馳走になったり。監督たちもみんなまあまあお金はあったみたいで、毎日ご馳走になってました。


大根:18、19で…。
 
松江:なかなかいないんじゃないですか、そういう人。
 
大根:こんな天然で、顔がかわいくて、ゴールデン街ふらふらしてたら…
 
松江:そりゃモテますね。
 
伊佐山:ゴールデン街、ほとんど毎日行ってました。朝までハシゴしてましたよ。
 
松江:そのまま現場に行ってたんですか。
 
伊佐山:うん。そのまま。
 
松江:監督も一緒ですもんね。
 
大根:作品そのものもだけど、昔の日本映画の現場ってそういうルーズなノリっていうか、ファミリー的な雰囲気とか、すごく憧れますよね、やっぱり。
 
そして大根さんからは、伊佐山さんの有名なあるエピソードについて質問が。

大根:そうだ、あと聞きたかったのは有名なエピソードですが、ロマンポルノ時代、伊佐山さんは前バリを拒否してたんですよね。

伊佐山:そのことでも、会社のプロデューサーよりもっと偉い人に呼ばれて、ひどく怒られました。でも前バリってそれがないことのように、人形みたいに埋められてる感じが嫌だったし、男の人は必ず前バリをしてるんですよ。だから何で私がしなきゃいけないのって思ってたし。男女やったら過剰じゃない。


大根:でもそういう理由で嫌だったんですか? 煩わしいから? 気持ちが入らない?
 
伊佐山:気持ちが入らないっていうか、自分の体にそういうことするなんてみっともない。
 
大根:でも他の女優さんは当り前のようにしてたんですよね。
 
伊佐山:でもそういう行為を実際にはしてないわけだから、男の人が前バリしてるから私がやらなくたって、間違いはないと思っていたので。
 
大根:でも前バリなしでやって、実際映っちゃったこともあったんですよね。
 

伊佐山:あります。撮影所でラッシュ見てるときに、「ほら! カメラの前に毛が!」「お前が立つから!」ってカメラマンの方に怒られました。「よく考えて立て」って「ヌボッと立つんじゃない、カメラの前で」って。でも撮影現場が家族的な感じだったから、その辺にまっ裸でいようとそういう意味での恥ずかしさはなかったかもしれません。


松江:逆に前バリで隠すほうが恥ずかしい。
 
伊佐山:あ、昨日『あんにょん由美香』を見たんですけど、由美香さんもそうだったんですね。自分を思い出した。
 
松江:そうなんです。伊佐山さんの話を聞いたとき、由美香さんを思い出しました。
 

このエピソードは小説でも書かれています。「肉でできたバービー人形のようになるのは、ぜったい恥ずかしくて嫌だ」。伊佐山さんの中にすっと通った一本の芯、その強さを感じた気がしました。

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