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“フーテンのべべ”が書いた小説世界 伊佐山ひろ子×大根仁×松江哲明トークショーレポート


私自身が読むために書いている

フィルモグラフィーを辿る旅も一通り終了したところで、話題は再び伊佐山さんの小説の話に。はっきりとストーリーがあるわけでもない連作集、伊佐山さんはどのように執筆していたのか? という質問が出ました。
 
大根:でも、全体の構成があるとは思えないし、どんな感じで書かれていったのか想像つかないですよね。
 
松江:一気に書かれてるんですか?
 
伊佐山:私はワープロも出来ないので手書きなんですけど、一気に書きます。
 
大根:直筆の人独特の感じがあるなって思いました。
 

伊佐山:一編が30枚~40枚くらいで、書き始めるまでにはいろいろ大変なんですけど、一行書き始めたら、本当に何時間かで書いてしまいます。書きなぐったみたいな感じだから、分かりづらいと思いますよ。それを編集者の人がきれいな活字に直してくれて、分かりづらかった部分をチェックしてくれるので、「どうして分からないのかな」って…書きなおしてみるんです。相当ご苦労かけたと思いますよ。


大根:いやいや、分かんないと思いますよ。筋を追って読んじゃダメってことだよね。本とか物語を読むときって起承転結的なものを期待して読むわけじゃない? 感情の揺さぶりというか、喜怒哀楽のどっかに自分を着地させたい気持ちで読むわけだけど、これはどこにも行き着かないじゃないですか。喜怒哀楽以外の感情というか。
 
伊佐山:文章を書くのは、私自身が読むために書くってことが大事なんです。人にももちろん読んでもらいたいけど。自分が出た映画でも、この場面のとき、帰りにあの人はこういう風に言ったなとか、俳優さんがあの衣装を嫌がって監督さんにこんなことを言ってたなとか、もう一つの映像が自分の中に出来るんです。
 
松江:自分の体験したことが加わるんですね。
 
伊佐山:だから本も、自分のことを書きながら、他のことを考えているんです。もう一つの映画を見ているような感じ。
 
大根:回想があっちこっち行くのはそれでなんですね。
 
伊佐山:すごく好きな映画を見ていても、完結したものを見ているという感覚がないんです。映画を見てるとき、それは自分の出た映画じゃなくても、あのときあの人はこうしたとか、自分のことを思い出して、自分が映画とコラボレーションしているように思うんです。
 
松江:今聞いていて、伊佐山さんぜひ『インセプション』という映画を見てほしいと思いました。夢が何層にもなっているという話なんです。
 
大根:そうそう。俺もそう思った。色んな人の夢の中でトラブルが積み重なってて、いったいいま何見せられてるんだろうって、あれに近い感覚。
 
松江:(伊佐山さんは)クリストファー・ノーランだ。
 
大根:「映像化不可能」(笑)。何だろう、最初の2編はそれでも読み解ける感じがしたんだけど、「みずいろ」「1-1―19」「ナポリスパゲティ」あたりはすごいですよね。
 
松江:僕は小説を読むとき、登場人物がどこに立っているかとか、まず風景を作って読むんですけど、久しぶりにそれがひたすら追いつかなかった本です。もう、風景と主観と頭の中が全部一緒に、ごっちゃになるじゃないですか。でもそれはすごく女性的だなって思ったんです。
 
大根:すごく細かいデティールを書いているでしょ。「みずいろ」の「黒犬は後ろ足をあげて、赤く尖ったチンチンを、いっしょうけんめい舐めている。」って映像は伊佐山さんの頭の中にカチッとあるわけですよね。
 
伊佐山:書くときは、映像を見ながら書いているの。映像が出てきて、それを隅々まで記録する。
 
松江:でもお話してて分かるように、伊佐山さんの見ている映像って(僕らと)全然違うんですよね。
 
大根:誰もに勧められるものではないと思うんですけど(笑)、相当面白い本ですよ、これは。
 
伊佐山:有難うございます!
 
お二人から直接言葉をもらって、壇上の伊佐山さんもとても嬉しそう。さらに話は、伊佐山さんにとって「書く」とはどういうことなのか、というところに。

松江:伊佐山さん、さっき自分のために書くとおっしゃったじゃないですか。どういう風に自分のためになりましたか? 自分のためにというのは、人に伝えるというのとは全然違うと思うんですが。

伊佐山:自分はどうしてこんな風なんだろう、と毎日悩んでいるときもあるんです。でも、いちいちこうやって字にして、あとで見ると、やっぱりこれでいいんだなと思える。そのためです。
 
松江:でも本当にこの小説は何にも似ていない感じでした。見たことないというか、初めて出会うものだったんです。
 
大根:伊佐山さんのお芝居と一緒で、テクニックじゃない。うまいか下手か分からないんですよ。でもそこを基準に語るのも馬鹿らしいというか。感覚で読んだほうがいい。
 
伊佐山:私も、文を書くのがすきなタイプじゃないし、本を読んだり勉強したりできなかったし、勉強家じゃないから。どうしてこういう風に書くのか自分でも分かんない。
 

大根:分かんないですよ。ベストセラー系の分かりやすいもので「わあ、びっくり!」って感動とか泣けるとかそういう気持ちになりたい人には勧められないけど、なんかでもう、ふわふわっとどんな感情にもなりえない気持ちになる小説なり映画なりってあると思う。「何だろうこの気持ち?」って、自分でも想像のつかない感情を湧きださせますよね。


伊佐山:大根さんにもそんなに言って頂けるなんて!
 
と、2時間に及ぶ楽しい時間もそろそろおしまいに近づいてきました。最後に松江さんから、伊佐山さんにこんな質問が。
 
松江:伊佐山さん、最近の女優さんでいいなって思う人いますか?
 
伊佐山:上野樹里さん。来年の大河で一緒になんです。最近は、若い人でも、すごく度胸があって、ドーンとしてるんですよね。あの自信はどっから来るんだろう、すごいなと思うことが多いです。
 
大根:でもそれはかつての自分でしょう(笑)。
 
松江:初期の映画のどれを見ても「その度胸どこにあるの?」って感じですよね。
 
大根:バンバン脱いでファックシーンとかもやっちゃうわけですから、今どきのそんじょそこらの女優の度胸の比じゃないと思いますよ。
 
まさにその通り! スクリーンの中、小説の中、そしていまと、いろいろな伊佐山ひろ子さんを知ることができたひとときでした。お忙しい中出演を快諾して下さった大根仁さん、松江哲明さん、そしてこの場を作るきっかけとなった素晴らしい小説を書いて下さった伊佐山さんに心より感謝いたします。『海と川の匂い』未読の方はこの機会にぜひお手にとってみてください。
 

『海と川の匂い』伊佐山ひろ子・著
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